小川さんの演劇との出会いは、高校時代にまでさかのぼる。
そもそも役者志望で演劇部に所属していたが、彼女の興味は“演出”の領域へ少しずつシフトしていった。大学では心理学を専攻したが、演劇への夢を捨てきれなかった。
そして在学中にニューヨークに観光に訪れ、演劇学校を見学。
これが演出家の道に進む、ひとつのきっかけとなったという。
「心理学の世界でキャリアを積もう、と考えたこともありました。でも、ニューヨークの演劇学校を見たとき、私の本当にやりたいことは演劇なんだ、と再認識させられました。心に響くものがあったんです。
日本の演劇とは一味違うアメリカ流リアリズム演劇を、“理論ではなく実践で学びたい!”という強い欲望にかられ、卒業後すぐに飛んできてしまいました」
『アクターズ・スタジオ大学院』の演出学科に、初の日本人として入学し、ロイド・リチャーズ氏に師事。語学の面など、当初は大変な思いをしたと話すが、苦労のあとは微塵も感じられない。
それどころか、在学中に演出家として、ニューヨーク国際フリンジ演劇祭に参加。『HERE劇場』の演出活動に従事するなど、学生時代からその天性的な能力を発揮していた。
劇団『ウォークン・グレーシャー・シアターカンパニー』も在学中に結成されたという話ですが。
「はい。ちょうど2年前の冬休みに、役者、演出家、劇作家の仲間が集まって、合宿をしたんです。目的は1週間でふたつの作品を作ること。自分たちのワークショップですね。これが契機となって、6人の仲間で劇団を結成しました。
たまたま合宿が行われたのが真冬で、朝、窓の向こうに流氷が見えた。そこからインスピレーションを得て、『Woken’ glacier
-- 起きたら氷河だった』というカンパニーネームをつけたんですよ」
素敵ですね。劇団の特徴はどこにあるのですか?
「アメリカ演劇の基盤ともいえるリアリズムに、日本や欧州からの異手法をコラボレートして、新しい演劇スタイルを開拓することが結成の狙いでした。
具体的には、心理的アプローチがベースのリアリズム演劇に、ダンスやマーシャルアーツのような身体的エレメントを融合する手法です。
東洋と西洋のコンセプトをミックスした、和洋折衷の新スタイルといえるでしょうか」
まだ動き出したばかりの若いシアターカンパニーだが、各種フェスティバルやワークショップへの参加など、確実にその活動の幅を広げつつある。
「演出家の仕事はプレッシャーも大きいし、つらいことも多いんです。
でも、各シーンの細かいリハーサルを何度も繰り返し、最後に全シーンを繋いでストーリーを確認できた瞬間は、言葉を超越した感動や達成感を得られます。だから、なにがあってもやめられません」
小川さんは少し照れくさそうに微笑んだ。
(第三話に続く)
(企画・インタビュー・構成/坂之上洋子・吉藤美智子、写真/詩乃コバント)
|