今回上演された『seal sings its
song』の舞台は、1982年のアメリカ。まだエイズがゲイ特有の病気だと、世間に誤認されていた時代だ。
絶望の淵に立たされたひとりのエイズ患者が、世間に向かって何かしようと思いをめぐらせる。そこで当時動物愛護問題の的となっていたアザラシを盗み、女性にHIVウイルスを故意に感染させることを思いつく。
メディアの関心を惹き、社会的な運動を巻き起こそうとしたのだ。
だがメディアは、彼にまったく興味を示さずじまい。
身勝手な行動を犠牲になった女性やアザラシに非難される場面を経て、自分のやり方は間違っていたことに気づく、というストーリー展開だ。
この作品のテーマやメッセージを教えてください。
「社会的、政治的な犠牲者の姿を描き、米国政府を批判することが劇作家の意図で、ポリティカルな要素に力点を置いています。
でも私は、脚本からもっとユニバーサルなテーマを感じ取りました。
つまり、“絶望的な状況に置かれた彼がとった行動は、はたして正しかったのか? 何か他の選択肢はなかったのか?”という、人間のあり方を深く追求したものですね。
このメッセージを観客に提起できる演出をしてみたい、と思いました」
今回の舞台演出で難しかった点はどこですか?
「“リアル”なシーンと、例えばエイズ患者が感染の2日後に他界するといった“ハイパーリアル”なシーンが交差しています。
つまり、リアリティを濃縮した脚本になっているので、1本の話の筋を2時間の演技の中で、いかにわかりやすく伝えるかという点に、非常に苦心しました」
どう伝えるかについて、劇作家との討論もかなりあったという。
「劇作家との交渉とコラボレーションも、ひとつの課題です。
私の中では、劇作家と演出家の境界線がまだ曖昧なので…。
劇作家のこだわりや主張を尊重しながらも、演出家として、観客の心を動かす完成度の高い作品に仕上げていくことは簡単ではありません。双方の妥協と同意が必要になってきますから」
しかし何よりも大変だったのは、資金繰りだった。
資金調達パーティーやオークションの開催、寄付金の依頼、補助金の申請…。設立して間もないこともあり、すべてが手探り状態。
劇団員みんなが必死だったという。
「色々と勉強になりました。補助金を受けやすくなるので、近い将来カンパニーを非営利団体にする予定です」
“演劇が好き、演出が好き”というだけでは、舞台は実現しない。資金と仲間、そして観客がいて、はじめて成立するもの。
演出家としてグループを指揮するには、アーティストとしての独創性に加え、精神力やビジネスセンスも要求されてくるのだ。
(第四話に続く)
(企画・インタビュー・構成/坂之上洋子・吉藤美智子、写真/詩乃コバント)
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